昔のこと:1

All-ceramic prosthesis

前歯3~3は巨匠A島氏製作
両側の4~6が自分製作

最近ある出来事があって、そういえば・・・と思い出した事がありました。
( 写真もあったはず、、と必死に探し見つけました! )
もう17年ぐらい?前になるだろうか・・・・そのころ私は色んな事情があって
自営のラボを営みながら、技工修行の旅に出ていた最中でありました。笑

当時すでに40過ぎのおっさんの技工修業の旅のはなしは詳しく書くと長い話になるし、
まあ本音を言えば恥をさらす話だし、今回の話とはあまり関係ないので ( 関係なくはないか・・ )
またの機会に書くことにするけど、とにかく自分なりにもっと上手い技工士になろう、
と思っていた時期の話なんですね。

他の人はどうか分かりませんが、技工で”上手くなろう”という思想は、自分が思うに
かなり強固な動機がないと、今のぬるめ時代的には形成されづらいような気もしますがいかがなんでしょうか?
で、その時期の私はかなり強い動機のもと ( ある意味キチ〇〇に近い )必死に上手くなろうとしていたのです。

まあそんな数年を過ごしながら、その頃ビッタリとくっついていた T 先生とのお仕事での話です。
昔の話なんでちょっと記憶違いとか年代違いはあるかもしれません。
ある日、「 関山さん、いま行ってるプロビの上顎フルマウス模型、アレね、ケースにしたいんです。
で、申し訳ないんだけど A島さんにやってもらおうと思って・・・」と電話がありました。
( ケースにしたい、ってのはまあ、講習会プレゼンで使ったりとか、雑誌に載せたいって事です )

プロビまで作って本補綴は余所がやる、というのは技工士としたらまあ屈辱的なんですけど
あの巨匠なら全然、文句あろうはずがない。まして、こっちに気遣って電話してくださっています。

んで、「あ、そうなんですか!じゃあ、セット前に見たいんで納品されたら教えて下さい!」
あの巨匠 A島氏の臨床補綴物が見れる機会というのも、市井の技工士には中々無く・・・
おースゲェじゃん、と早くもワクワクしてしまったのです。
電話の向こうでこっちの興奮が伝わったのか、笑いながら

「いや、それでね、話はまだあるんだけど、実は患者さんとの予算の問題で、
全部 A島さんだと合わないから( 予算オーバーってことです )臼歯だけで悪いんだけど、やってくれる?」
とおっしゃるではありませんか。。。

なにーー、あの巨匠と患者さんの口腔内でランデブーするってか!!  私は2つ返事で
「 やるやる、いやもうやりますよ! てか、やらして下さい!」と叫びました。
「あ、そう?よかった 笑 」
「あ、先生、ピックアップして!印象!取り込んでね、お願いします!!」
( A島先生の補綴物完成後にそれを試適して、そのままシリコンに取り込んで
臼歯部印象してもらえば、自分が製作中はずっとソレを見ていられることになりますし
似せるならその方法が一番いいし、勉強になるし w)

わかった分かった、、という事で、待つこと数週間、巨匠補綴物の取り込み印象が届きました。
これかーー・・・・
パッと見はまあ綺麗なんだけど、どうという事のない補綴物。
ノリタケ独特のあの A系 ( CVサービカル )の色。あえて個性を殺しているのか、主張しない形態。
巨匠は雑誌でも「 誰が作ったか分からない補綴物が理想 」
と書いていたのを見た記憶があるので、まあそうなのかな?と思ったり
しかし、もっと感動するだろうと思っていたので、正直ちょっと肩透かしを食らった気分でした。
( それはお前に見る目が無いからだろう、というお叱りもごもっともです。申し訳ございません )

それでもその補綴物を持ってみると、今まで感じたことの無い感触なのです。
なんかズッシリしている。重いんです。
メタルが重いのかとも思ったのですが、それとも違う感覚。
言ってみれば、陶材が密に詰まっていて重みを感じるというか、そういう感覚に近い。
多分、かなり焼きこんでいるよなあ、、、、それもあくまで感覚です。
しかし明らかになにかが違う。でも何が違うかわからない。

翌日からは格闘です。
私の担当は、左4~6インプラントブリッジ、右4、右6インプラント 5が天然歯支台です。
とにかく、少なくとも患者さんには、あまり違いが分からないように作らなくてはならない。
さらに、プレゼンに使うんだから、全体のニュアンスも似せないとならない。

実体顕微鏡でくまなく眺めながら、裏にし表にし斜めにし、観察しながらの製作です。
しかしあまり細かい所ばかり目がいくと、全体のバランスや雰囲気が似てこない。
最初、大したことないと感じていたその補綴物が、すごい巨匠の補綴物だという余計な思い込みも重なって、日ごとにその重圧めいたものが大きくなっていくのです。

当然、他にも仕事はあるので追い込まれるし、当時移動距離もハンパじゃなかったので
( 日によっては6時間以上車で移動してた )考えたら巨匠と同じものが作れるはずがないから
最後は開き直って、もう時間をかけてただただ丁寧に向き合うしかないな、、
と今となってはどうやって仕上げたかも忘れましたが、完成に漕ぎつけたのでした。。。

 

Ceramic prosthesis

頬側面観
自分なりに奮闘するも敗れる感ありありと。 たしか下顎はデンチャー、その写真はみつからなかった

いま写真をあらためて見てみると、いろいろ粗が見える所はあるけれど
丁寧なヒッシ感は伝わって来るし、はたして今これ以上のもの、この情熱のものが
作れるだろうか、と自問自答してみればそれは怪しい。

つまり今俺はまあ、ヤバい状況に置かれているぞ、という客観視が出来るのであって
その意味でも過去の臨床写真って重要なんですね。

人は嫌でも歳を取る。
色々なことが面倒になったり集中力が続かなくなったり、観察眼が無くなったり、、、
10年後も今と同じように、とまでは行かなくても少しセーブする形で
仕事が出来ているだろうと何となく思ってしまっているけれど、それは違うかもしれない。

それはどんな巨匠でも同じであろうし、わたしのような普通の技工士も同じであろう。
歳を取っても色々なことをやりとげる、体力と気力。
先の事を考えて今できる事をやっておかないといけないな。
それを考えさせてくれる出来事がありました、という話だったのです。

追記:
巨匠の作品で、なにが凄いかって それはこれを口腔内に入れたときです。
スッ、っと入れると 当然そこにあるべきものがそこにある、という自然感。
違和感が微塵もない。
健闘はしましたが残念ながら、それはわたくしのものには欠けていたのでした。。。